お盆になったらって行事は色々とあって、
でも瀬那んチでは、あんまり昔からのことって やんなくて。
そいだから、おナスやキュウリに割り箸差して、
お馬や牛さんを大人が作って仏壇に置くの、
ドラマとかで観て不思議でしょうがなかったの。
そしたらヒル魔くんがね、
『あれはな、
亡くなった人があの世から家へ帰って来るときに、
乗って来るんだよ』
って教えてくりた。
夏に実る野菜で作るんだって。
豊かな実りをありがとうござますって意味もあるんだって。
今みたいな住みようじゃあ出来ないことだけど、
昔は家の玄関前で穂がらっていうのを燃やして
“迎え火”っていうのを焚いて、
ご先祖様への目印にしたんだぞって。
同じものを焼いても家によって違う色がついて見えて、
そいで迷子にならなくてすむんだって。
自分のお家でもね、ご先祖様ほど昔の人では、
今はどんな人が住んでるかとか、
改築したかとかいう事情が挟まると、
どれが自分チか判んなくなるから…なんだって。
「……なんでまた、
そういう妙なことに詳しいかな、あいつはよ。」
あっ、いけませんのな、葉柱さん。////////
人の日記読んだら めぇです。
進さんにも読ましてませんのに。
「そうは言うが、ガッコのセンセには読ますんだろ?」
当たり前ですよう、しくだいですもの。
「だったらいいじゃねぇか。秘密を書いてる訳でもなし。
それとも、センセにだけしか話せないことを書いてんのか?」
そゆワケではないですけども……。
じゃあ ちみっとだけですよ?
◇◇◇
おうよと微笑った葉柱だったが、別段どうしても読みたかった訳でもなかろう。ただ、食後の息抜きとばかり、皆して好き勝手にごろごろしている中、広いリビングの窓辺、風通しのいいところに“よいちょ”と陣取って、一丁前にノートを広げる坊やだったので。片やは、後片付けしている女子マネに交ざって、世間話 兼 情報収集に勤しんでる小悪魔さんの忙しいの、邪魔したくないからだろうと読んだ上で。じゃあ自分が構ってやろうかいと思った総長さんであったらしく。
『今年の王城は、富士山麓での合宿なしで、
いきなりドイツの方へ行っちまったんだと。』
本来ならば、その二つの合宿の狭間、盆の休みには実家へ戻るホワイトナイツの面々なので、その折にまとめて、大好きな進さんにたんと遊んでもらえるセナだのに。今年はそうはいかない段取りになってたらしくて。やっぱり例の新型インフルの影響でか、他の地域から来る別のガッコの合宿所もご近所にあるからと、大事を取って富士の合宿所は使うことなくの、八月前という早いめに、いきなりドイツの古城へと、発ってしまった皆様だとか。衛生面という見地からの判断で、日本の方が危険だなんて、前代未聞なこの1年となりそうなのは…まあ今更だとして、
『まあな、高校生にはそもそもお盆は関係ねぇもんな。』
王城といえば、由緒ありそな旧家の子息も多数通ってるガッコではあるが、それでもそういう行事へ直接かかわってる子は今時では少ないだろう。あったとしても、片や結果次第でレギュラーに選ばれるかもしれないという合宿への参加。当人は優先させたいに違いないので、今年のような急遽の変更があっても支障はなかったらしいのだが…。
『……。』
仁王様のようなラインバッカーさんをこそりと想う、小さな小さな坊やには、こっそりと大きな打撃が出てもおり。終業式の日に既に、しょんもりと小さな肩を落としていたの、何だどうしたと聞きほじっての末に。そういう事情を知った、意地悪に見せて実は世話焼きな小悪魔さんが、
『帰って来やがったら目にもの見せてやる。』
『いやそれはセナも困りるです、ヒル魔くん。』
お約束なやり取りを差し挟んでの後、
『じゃあ、ウチの合宿に参加しな。』
そんな風にお声をかけた。寝坊する奴ら叩き起こして回るのに、手がいくらでも欲しいとこだ。賊学は怖いお兄さんばっかりだ? あの進の威容を平気な奴が何を言う…じゃなくて。
『大丈夫だ、見かけほど怖かねぇから。』
『……ホントぉ?』
何だよ日頃も遊びに来てるくせによ。だって寝起きが悪い人は、昼間は優しくても人が変わるって、姉崎センセが そくいんしつで(職員室で)ゆってたもん。
『…要らんことを聞き込むんじゃねぇよ。』
『?? ちやうの?』
いやその、そういう奴は女に多いんだし、ウチにもいたとしたらそういう奴は俺が担当すっから、な?
『うっとぉ、じゃあお邪魔しますvv』
そういうごちゃごちゃの末に、賊学恒例海辺の合宿へご招待して差し上げた、小早川くんチのセナくんであり。確かに恐持て連中揃いだが、実は…案外と面倒見のいい奴も多数いて。それでなくとも、見かけ倒し、もとえ…見かけと中身が真逆な小悪魔さんにより、日頃から さんざんに翻弄されまくりな面々だったので、
『よぉしくお願いしまっす。』
あらためてのご挨拶、初日のマイクロバスに乗り込む前に、皆様へとひょこりと頭を下げたセナくんだってのからして、
『うあ〜、かわいいなぁ。』
『そうなんだよ、
このくらいの子ってのは、こうじゃねぇとおかしいんだよ。』
『何でまた、ギロリって睨まれんのだけじゃなく、
にこぉって天使みたいに笑うのまでも、
何か裏があるんじゃないかって怯えにゃならんのだ。』
とばかりの、絶賛の嵐だったし。その直後に、お隣に立ってた問題の小悪魔様が、さらっさらな金の前髪透かさせた、金茶色の眸を眇めさせ、
『…………あんだってぇ?』
凄んだ一言だけで…皆して一気に涼しくなったのもお約束。(苦笑) そんな始まりようにて幕を切った賊学の夏合宿は。空調管理されたジムで特別な筋トレマシンを使うでなくの、結構素朴なメニューが多く。タイヤつけて砂浜を走って体力をつけたり、ご近所の草刈りをお手伝いして足腰鍛えたりという準備段階から。そろそろ、草を刈った後に作りましたるフィールドにての、シフト練習が始まり始める頃合いで。
「そういやもう半月になるんだ。家へ帰りたいってのは思わねぇのか?」
「はい、皆 おもしくて帰りたくないですvv」
どうやら面白いと言いたいらしく。目許口許、はにゃんとほころばせる笑顔は、なかなかに愛らしくって、
『買い出しに連れてくと重宝するよ?』
ヨウイチと二人して、商店街のおばちゃんたちをメロメロにしてんだよねと、メグが からからと笑ってたのも頷ける。大きい背中と小さな背中、庭へと向いた窓辺に並んでいるのを、通りすがりのレギュラーたちが微笑ましげに眺めやる昼下がり。厨房の方からは、やはり幼いお声が女子の面々を沸かしている笑い声が聞こえており、苛酷なゲームをこなす連中の合宿所とは到底思えぬ、安寧な空気がとろんと目許を緩めちゃあ、猛者たちへ昼寝を誘うほど。日記帳の上半分、絵を描くスペースに、割り箸の足をつけた緑と紫の野菜を見やり、
「そういや、裏のおばさんトコで、キュウリやトマトもらったんだってな。」
自家菜園どころじゃあない、ちゃんとした畑で色々と作っていなさるお家も多いここいらなので、お手伝いをして旬のお野菜を分けてもらうというサプライズもあり。
「はいっ。とーもろこしももらったですvv」
こぉんな大きいのと、自分の胸の幅ほども小さな両手を広げるセナくんだったが、
「あ、でも葉柱さん。」
何を思い出したか、ふと、声を低めた坊や。あのねあのねとお口に手まで添えるので、そっちへ体を傾けて、お耳を貸してやったれば、
「あのね? ヒユ魔くん、うそんこ笑いしてたんじゃないのよ?」
「……え?」
ま〜た おべっか笑いしてやがったなって、こそってゆってたでしょ? そんなことをば、こそっと囁かれ、うっと言葉に詰まったあたり、総長さんからして小さい子にはお弱いご様子。確かに、保護者としてついてったその帰りがけ、年相応の可愛い子ぶりっこをしていたヨウイチくんへ、そんな言いようをこっそりとした覚えがあった葉柱でもあり。確たる事実だとはいえ、うるせぇよと突っぱねないまでも、調子よく合わせてやりゃあ済むことだろうに、それがどうかしましたかと、神妙そうなお顔を向けたれば、
「でもね、ヒユ魔くん、作り笑いするときは、もっとお眸々を細くすんの。知ってた?」
「………え?」
あ、やっぱり知らなかったんだ。目線が泳いじゃうからって、嘘んこで笑うときは目が細くなってるの。でもでも今朝は、お眸々をセナほども大っきくして喜んでたでしょ? だから……。
「……知らなかったでしょ?」
「〜〜〜〜〜〜はい。」
恐るべし、始終一緒にいる強み…ってトコでしょか。いかにもお子様用、A5版という大きな帳面を広げていたお二人さんへ、
「おーい、セナ。」
やはり伸びやかなお子様の声がかかったのはそんな折。ギクリと背条が凍った誰かさんの傍ら、
「なぁに? ……あ。///////」
こちらは別に意趣もないまま、素直に振り向いたベビーフェイスの可愛い子ちゃんが、見る見る頬っぺを染めたのは、
「セナ。」
あれあれ? だってあのそんな。ドイツに行ったはずじゃなかったの? 大好きなお兄さんが、仲良しなお友達のお隣に並んでる。大きくて男らしくて頼もしい、セナが大好きな進さんが立っていて、
「例年の倍って日程になったんで、早い目に帰って来たんだとよ。」
本人になり代わり、子蛭魔くんがそんな説明をしてくれたけれど、
『富士山の合宿所が長雨の影響で左前になったらしくてな。
誰も利用者がいないんなら新型インフルもなかろってことで、
今年の合宿の後半を、そっちでこなすってことになったらしいんだよね。』
長年お世話になってる施設だからっていう、恩返しも多少は兼ねているんだろうけれどと。急な帰国の詳細を説明してくれたのは桜庭さんだったそうで。ああでもセナくんにはそんなの関係ないこと。
「迎えに来た。」
「えと?//////」
「泥門に帰って、ちこっと遊ぼうってよ。」
それと、富士の方の合宿所なら、お前もついてけるんじゃねぇの? そんな嬉しいサプライズをば、付け足してくれた蛭魔くんへ、にゃあvvとそれは嬉しそうに笑って見せて。小さなセナくん、お帰りの支度に大急ぎで取り掛かったのでありまして。残りの夏休みが、一気にばら色になっちゃったみたいだねぇ?
「まずはと迎えに来るとこが、
自覚は無さそうだが、進の方からもぞっこんだってことだよな。」
「ぞっこんて…。今時の子も使うのか? それ。」
ぱたぱたと寝起きしているお部屋へ向かったおチビさんと入れ替わり、葉柱といた窓辺までへと運んだ小悪魔様だったが。相変わらず、ひょんな拍子に大人っぽいを通り越しお父さん世代の物言いをするヨウイチくんへ、ついのこととて“おいおい”という眸を向けた総長さんだったところが、
「そういうルイはどうなんだ?」
「……はい?」
ついつい、ですますに準じる口調で応じてしまったのは。ちろりんと見上げて来た目線が妙に…威嚇を帯びていたからで。もしかして、今さっき話してたところを暗に訊いてる彼だろか。それとも、セナ坊と二人きりでいたのを焼かれてるとか? ああいやいや、そっちはなかろうから、えっとじゃあ何だろか。
“う〜ん……………???”
せいぜい悩め悩め青少年とでも煽っているものか。それにしては涼しげな響き、軒に下がった風鈴が、ちりりんと冴えた音立てた、真夏の昼下がりでございます。
〜Fine〜 09.08.15.
*いやお盆だなぁと思ったもんで、
それへとまつわる何かを、
メモなしの一発書き下ろしで書いてみましたら、
……やっぱりグダグダになってしまいました。(とほほん)
こんな場からではございますが、
皆様、残暑お見舞い申し上げます。
めーるふぉーむvv


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